東京ヴェルディ解体新書 | 戦術分析 | 永井監督の2020シーズン

東京ヴェルディが「名門」と言われて久しい。

「名門」とういうフレーズはどこか「過去の栄光」という意味を含んでいるのではないだろうか。

かつてはキングカズ(三浦知良)ラモス瑠偉北澤豪らスター選手を要し、初代Jリーグ王者に輝くなど日本サッカー界の歴史に燦然と輝く足跡を残していたチームである。

しかし、1998年に読売新聞社が経営から撤退したことを皮切りにじりじりと下降線をたどり、現在はJ2が主戦場である。

毎年J1昇格を掲げるものの、J2中位の順位からなかなか這い上がれないかつての名門は2019年、ユース監督であった永井秀樹氏をトップチーム監督に昇格させ、J1昇格を託すこととなった。

そして、永井体制となって2年目。

やりたいことが浸透してきた2020年シーズンだが、やはり結果は12位と冴えなかった。

3年目で結果が出ないとその去就が騒がれることになりそうではあるが、新シーズンに入るまえに、2020年シーズンの東京ヴェルディの戦術を振り返っておこう。

ゲームモデル

相手を圧倒して美しく勝つ

これが東京ヴェルディで永井監督が目指すゲームモデルだ。
コンセプトと言ってもよい。

基本的にボールポゼッションを高めて攻撃することがベースで、流動的でスペクタクルなサッカーで勝利を目指している。

プレースタイル

コンセプトに基づくプレースタイルは「連携プレー」である。

“ポジショニング”と“数的優位”を重視する「ポジショナルプレー」を理想とする。

欧州サッカーシーンにおいて、バルセロナで無敵チームを作り、バイエルンで圧倒的実績を作り、マンチェスターシティでもその手腕を遺憾なく発揮している「ジョゼップペップ)・グアルディオラ」監督の大ファン(マニア)と公言しており、そのサッカーに影響を受けていると言ってよい。

プレー原則

東京ヴェルディにおけるプレー原則の「4つの局面」に関しては以下となる。

攻撃の局面ボールを保持しながら流動的なポジショニングでスペースを突くこと
攻撃→守備の局面守備陣形を素早く組織すること
守備の局面ブロックでスペースを消し、面で守ること
守備→攻撃の局面ボールを確実に保持できる体制を整えること

基本フォーメーション

上記のベースを考慮し、東京ヴェルディが採用している基本フォーメーションは「4-3-3」となる。

中盤の底にボール奪取力とパス配給能力に長けたアンカーを置き、インサイドハーフの2人がハーフスペースに陣取る。

両サイドバックは高いポジション取りをし、3トップの両ウイングはグラウンド幅いっぱいに位置し、スペースを作る。

センターフォワードはフィジカルに優れたストライカータイプではなく、ポジショニングとテクニックに優れたフリーマンを置く。

2020年シーズンの基本布陣は以下の通りである。

  • GK:足元のプレーに安定感がある「マテウス
  • CB:シーズン通して安定感を見せた「平智広」、フィジカルよりも頭脳派DFの「高橋祥平
  • 左SB:精度の高いクロスに加え、フリーキッカーとしてもカウントできる「福村貴幸
  • 右SB:対人プレーに強く、攻撃力・展開力が増した「若狭大志
  • アンカー:ユースからトップ昇格一年目で急成長を遂げた「藤田譲瑠チマ
  • インサイドハーフ:トラップで違いを作り出せる「井出遥也」、クリエイティビティに富む「佐藤優平
  • 左ウイング:中盤からのコンバートで覚醒した「井上潮音
  • 右ウイング:キャリアハイのパフォーマンスを続ける「小池純輝
  • トップ:スペースを作る動きができる「端戸仁

東京ヴェルディ固有のポジション名

東京ヴェルディのシステムは「4-3-3」であることは先述したが、永井監督はユース監督時代からも「4-3-3」を採用している。

そして、当時からポジション名は独特の固有名称を付けていた。

GK以外、全てのポジションで一般的に使われるポジション名と異なる名称がつけられている。

そしてその名称こそ永井監督の理想するサッカーに基づいていることに注目したい。以下で各ポジションの説明を付け加えていく。

ゴールキーパーの役割

永井監督のサッカーにとってゴールキーパーはフィールドプレイヤーである。

これは先述のペップ・グアルディオラが出現してからの世界の潮流と言ってよい。

足元の技術に優れ、ディフェンダーと共にビルドアップの一角を担える選手でなくてはならない。

サイドバック(サイドアタッカー)の役割

サイドバックはアタッカーでもある。

守備よりも攻撃に重きを置く意図が見られる。攻撃時には大外に開き、ビルドアップの出口となりながら、ウイング(ワイドストライカー)と連携してサイドをえぐっていく役割を果たす。

センターバック(クラウン)の役割

センターバックはビルドアップの起点となる。

両センターバックがワイドにポジションを取り、ゴールキーパー、アンカーと連携を取りながら、相手のファーストラインを突破し、ボールを進めていくことが求められる。

また、チャンスがあれば、相手サイドバックの裏を狙うロングフィード能力にも長けていることが望ましい。

チームとして常にポゼッションを維持していくために、いつでもボールを受けられる位置取りをすることも重要だ。

クラウンとは「王冠」との意味を有するので、ある意味フィールドを支配し、俯瞰できるような選手が求められる。

アンカー(リベロ)の役割

Embed from Getty Images

最も重要なポジションである。

システムの真ん中に位置するため、すべてのプレイヤーからボールを受けられるポジショニングが求められる。

東京ヴェルディの心臓と言って良い。

守備的要素が強ければボール奪取力、スペースカバー能力に長けていることが求められ、攻撃的要素が強ければ、ボール配給能力、展開力、ボールを受けるポジショニング力が求められる。

但し、どちらかに偏るというよりは、総合的な能力がないと永井監督の理想するサッカーには務まらないポジションでもある。

インサイドハーフ(フロントボランチ)の役割

5レーンの外側から2列目であるハーフスペース、そして相手方ディフェンスブロックの間(例えば相手方が4-4-2の場合、4-4ブロックの間)に基本ポジションを取り、センターバック、アンカー、サイドバックからのパスの出口としての役割を持つ。

但し、その場所に固定されるのではなく、流動的に動き、ボールに関与することでリズムを作ることも重要だ。

また、アタッキングサードではシャドーストライカー的な動きはあまり求められておらず、ラストパスの供給者としての期待の方が大きい。

ウイング(ワイドストライカー)の役割

基本は大外に位置する。ボールが反対側サイドにある場合でもつられて中央に寄って行ってはならない。

この場合、マッチアップする通常相手側サイドバックは中央へスライドするので、大外のポジションを取ることでアイソレーション(孤立化)状態を生み出す。

反対側の密集地帯からボールが出てくれば、そこには広大なスペースが広がっていることになり、攻撃としての自由度が増す。

サイドバック(サイドアタッカー)が上がってきた場合は、中央寄りにポジションをずらしていく。

トップ(フリーマン)の役割

フィジカルとスピードを備えた典型的なストライカーではない。

求められるのはスペースを生み出す能力だ。

タイミング良く中盤に下りたり、サイドに流れることで、相手ディフェンダーを釣り出し、ゴール前にスペースを作る。

また、受けた楔を狭いスペースでもワンタッチで処理するといった技術面も有していなければならない。

攻撃時のメカニズム

基本的には「ボールを保持したまま相手を超えていくこと」を重視する。

そのために必要な原則が2つある。

ひとつは「自力で越えられなければ人で超す」ということである。

そのために「ポジショニングの優位性」と「数的優位性」を確保する動きを共通理解として持っており、流動的に動くことでボールホルダーからパスを受けられるポジション、パスを受けられる人数を作り、パスを出すことで相手ディフェンスラインを超えることが求められる。

もう一つは、「ボールを当ててその裏のスペースを使う」という動きである。

ヴェルディの試合を見ていると頻繁に近距離でパス交換を行っていることが分かる。

パスを出すことで背後に位置する相手ディフェンダーを釣り出させる。パス受け手はパス供給者にワンタッチでレイオフ(戻す)ことで、空いたスペースを使うことが出来る。

そしてやはりサイドが重要だ。

両サイドがワイドに開くことで前述したアイソレーション(孤立化)状態も生じさせることが可能となることに加え、サイドバックが外側にピン止めできれば、センターバックとサイドバックとの間(チャネル)のスペースも使うことができる。

流動的に動くことで出来たスペースに対してダイレクトパスが3本以上つながるとゴール期待値は俄然高まる。

攻撃時のオプション(左右非対称な布陣と可変)

永井監督の戦術を読み解くうえで、「非対称」「可変」というもキーワードも重要だ。

攻撃時は左右非対称の配置を取ることが多く、非対称にすることで相手システムとの噛み合わせのズレを狙っている。

具体的に見てみよう。

左サイドバックの「福村貴幸」がウイングポジションまであがり、左センターバックが右サイドバックのポジションまでスライドして3バック体制となる。

併せて、左ウイングの「井上潮音」が中央に移動し、3-1-2-4を構築する。

こうすることで両サイドのワイドに選手を配置してスペースを作ることと、中央に選手を密集(オーバーロード化)させることを意図している。

また、この状況からさらに進化する。

可変により3バックのとなった一角の右サイドの「若狭大志」は新しいポジショニングを試みた。

攻撃時に「若狭大志」かなり中央よりのポジションを取ることで中盤の数的優位を確保し、ビルドアップや得点に貢献したのである。

いわゆる「偽サイドバック」として攻撃のオプションを示すことが出来た。

2020シーズン最終節 vs 水戸ホーリーホック戦での1シーンを振り返ってみよう。

3バックの右を務めていた「若狭大志」が中央インサイドよりにポジションを取ると、残りの2枚は中央よりのポジションにスライドし、「若狭大志」の裏のスペースをケア。

若狭は中盤でボールを受けると下がってきた「小池純輝」→「佐藤優平」とつないだパスを再度受け取り、反対サイドの大外でアイソレーション状態にあった「山本理仁」にロングパスを供給し、攻撃の起点となる動きが見て取れた。

今シーズンは「若狭大志」がインにインに入ってくるシーンが何度も見れた。

守備陣形

守備陣形は「4-4-2」のブロックを形成する。

この場合、左右のウイングのどちらかがサイドハーフのポジションに下りることになるが、どちらが下りるかは起用された選手次第である。

基本フォーメーションでいうと、右ウイングの「小池純輝」がサイドハーフに下りるケースが多い。

トップともう一方のウイングでツートップのような布陣を形成し、相手のビルドアップに対してプレスを掛けていく(但し、プレスは緩い)。

弱点

ボールポゼッション率は圧倒的に上回るが、ゴールに結びつかない

これが弱点であり課題である。

相手が完全に引いてブロックを形成した場合、ブロックの周りでひたすらパスをつなぐだけに終始してしまうケースが多い。

ボールを持っているのではなく、持たされている状況と換言してもよい。

改善すべきポイント

完全に引かれると作りだせるスペースもゴール前にはなくなってしまうため、「縦に速い攻撃」もスタイルとして持っておきたい。

  • 最終ラインから直接ディフェンダーの裏を狙うパス
  • カウンターの強化

小池純輝」「山下諒也」といった高速ウイングがいるので使わない手はない。

特に2020年に大卒1年目で大ブレイクした「山下諒也」のスピードは大きな武器ということが証明されたので、早い段階で裏を狙う攻撃を仕掛けるべきである。

ピックアッププレイヤー

永井体制2年目の2020年シーズン、特に印象に残った選手を私的にピックアップしてみたい。

藤田譲瑠チマ

Embed from Getty Images

永井体制下においって、間違いなく一番大化けした選手と言って良いでしょう。

ヴェルディユースからトップへ昇格1年目。開幕戦でスタメンの座を掴むと2020年シーズンは34試合出場を果たし、最も重要であるアンカー(リベロ)ポジションにおいて不動の地位を掴む。

開幕当初こそ、「大久保嘉人」が手振りを交えて“パス配給のタイミング”や“縦パスの意識”を教え込む姿が見られたが、この一年を通して、隙あれば攻撃のスイッチを入れるパスを幾度となく供給できるまでに成長した。

ユース時代から光っていたポジショニングの良さはさらに磨きがかかり、守備力も高く、得点もできる(2020年シーズン:3ゴール)ことを証明した大黒柱は、来シーズンよりJ1昇格が決まった徳島ヴォルティスへの移籍が決まり、一足早くJ1へ飛び立つこととなった。

井上潮音

Embed from Getty Images

中盤インサイドハーフでの起用から今シーズンは左ウイング(ワイドストライカー)にコンバートされ、得点への意識が大幅にアップした。

決してスピードがあるタイプではないが、インに入ってくるポジショニングの良さから、昨シーズン(3ゴール)を超える4ゴールをたたき出した。

これまで感情を表に出すことが少ないように思えたが、今シーズンは感情をむき出しにするシーンも見られ(レッドカード退場時には激しく怒っていた)、戦う姿勢も鮮明になった。

闘争心を身に着けた天才肌は、来シーズンよりイニエスタ率いるJ1のヴィッセル神戸へ移籍することとなった。

森田晃樹

Embed from Getty Images

出場は39試合、うち先発は18試合。ゲームチェンジャーとしての起用が多かった。

小柄ではあるが技術力が突出しているので、インサイドハーフ、トップといった中盤の狭い範囲でのボール保持で強みを発揮。

中・短距離のドリブル能力、パス供給能力も優れているマルチロールは、「流れが変えることができる」ということを強く印象付けたシーズンであった。

山本理仁

Embed from Getty Images

悔しい1年だったのではないか。

ユース時代には不動のアンカーとして、「藤田譲瑠チマ」と同期ながら1年早く飛び級昇格を果たすも、アンカーのポジションは「藤田譲瑠チマ」で固定され、「山本理仁」はセンターバック、サイドバック、インサイドハーフと複数のポジションで起用を余儀なくされた。

技術力はもちろん、視野も広く、クレバーさもあるので、「器用に卒なく出来てしまう」プレイヤーとして見られ兼ねず、35試合出場したものの大きなアピールには至らなかったシーズンであったと思う。

おわりに

永井監督の理想とするサッカーはどんな相手でも流動的なパス交換で崩し去るサッカーである。

それは確かに美しい。

テンポの良いパス交換により、相手より人が多く感じられるような錯覚に陥る。

但し、それだけでは勝てない。

世界的な潮流でもあるが、ポゼッションサッカーだけのチームではなかなか勝ちきれないのである。

ポゼッションスタイルに加え、新しい縦へのオプションもぜひ強化したいところである。

そして2021シーズンには悲願のJ1昇格を実現してもらいたい。

「名門」という呼称はもう要らない。

No Verdy, No Life.

Embed from Getty Images

コメント